テスターの抵抗測定原理を解説!仕組みから注意点まで

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Key-points-of-resistance-measurement-principle 【測る・記す】

 

テスターを使って電子工作や電気設備のメンテナンスを行う際、「抵抗値」の測定は最も基本的な操作の一つです。しかし、その測定画面に表示される数値が、一体どのような仕組みで導き出されているのか、深く考えたことはありますか?

「そもそも抵抗測定の原理は?」という根本的な疑問から、「アナログ式とデジタルテスターの電圧測定原理とはどう違うの?」といった具体的な仕組み、「抵抗を測ると0Ωにならないのはなぜ?」という実践で出くわすトラブルの理由まで、多くの疑問が浮かぶかもしれません。

実は、テスターの抵抗測定は電圧印加が基本であり、そこにはテスターの抵抗測定と電流値の関係という、電気の根幹をなす法則が深く関わっています。また、安全な測定に不可欠な「テスター抵抗測定で電源を切る理由」や、正確な値を得るための「テスターでの抵抗測定の注意点とは何か」を理解することは、機器の故障や思わぬ事故を防ぐために極めて重要です。

この記事では、これらのあらゆる疑問を一つひとつ丁寧に解き明かし、関連知識である絶縁抵抗測定の原理や、測定精度に関わる「テスター内部抵抗は測定値に影響する?」という専門的な内容まで、初心者の方でも理解できるよう網羅的に解説します。最終的な「まとめ:テスターの抵抗測定原理の要点」まで読み進めることで、あなたのテスターに関する知識は一段と深まるはずです。

👍この記事でわかること
  • テスターで抵抗を測定する基本的な仕組みとオームの法則の応用
  • アナログ式とデジタル式における測定原理の具体的な違い
  • 安全かつ正確な抵抗測定を行うための実践的な手順と注意点
  • 測定時に発生する誤差の主な原因とその具体的な対策

基本となるテスターの抵抗測定原理

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このセクションでは、テスターがどのようにして目に見えない「抵抗」という値を数値化しているのか、その根幹となる原理について深く掘り下げていきます。電気の基本であるオームの法則から、アナログ式とデジタル式それぞれの特徴的な動作原理、そして少し専門的な関連測定方法まで、順を追って詳しく解説します。

  • そもそも抵抗値の測定原理は?
  • テスターの抵抗測定は電圧印加が基本
  • テスターの抵抗測定と電流値の関係
  • デジタルテスターの電圧測定原理とは
  • 関連知識:絶縁抵抗測定の原理は?

そもそも抵抗値の測定原理は?

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抵抗値の測定原理を理解する上で、避けては通れないのが電気の最も基本的な法則である「オームの法則」です。この法則は、電圧(V)、電流(I)、抵抗(R)の三つの要素の関係性を示したもので、数式では V=I×R と表されます。

ohm's law
出典:illustAC

水の流れで例えるオームの法則

この関係を、ダムから流れる水の量で例えてみましょう。

  • 電圧 (V):ダムの水位の高さ(水を押し出す圧力)
  • 電流 (I):実際に流れる水の量
  • 抵抗 (R):水路の幅や障害物の多さ(水の流れにくさ)

水路が狭く、障害物が多い(抵抗が大きい)ほど、同じ水位(電圧)でも流れる水の量(電流)は少なくなります。逆に、水路が広ければ(抵抗が小さい)水の量(電流)は増えます。

テスターは、測定したい抵抗器(水路)に対して、内部で作り出した既知の圧力(電圧)をかけるか、あるいは既知の量の水(電流)を流し込みます。そして、その結果として「どれくらいの水が流れたか(電流)」あるいは「どれくらいの圧力差が生まれたか(電圧)」を観測することで、逆算して水路の流れにくさ(抵抗)を正確に導き出しているのです。

この「電圧と電流を計測して抵抗を割り出す」というプロセスが、全てのテスターにおける抵抗測定の核心部分となります。


テスターの抵抗測定は電圧印加が基本

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特にアナログテスターにおける抵抗測定のプロセスは、内部に搭載された電池から測定対象の抵抗器へ電圧を印加することから始まります。これは、いわばテスター自身が小さな電源となって、測定のきっかけを作り出す非常に重要なステップです。

テスターの測定レンジを切り替えるロータリースイッチを「Ω(オーム)」と書かれた抵抗測定レンジに合わせると、テスターの内部回路が電池に接続されます。これにより、赤と黒のテストリードの先端から、電池の電圧(一般的には1.5Vや3Vの乾電池が使われます)が出力される待機状態になります。

この状態で、測定したい抵抗器の両端にテストリードをしっかりと接触させると、回路が完成します。すると、テスターの内部電池から供給される電圧が抵抗器にかかり、オームの法則に従って電流が流れ始めます。

ポイント

テスターが自ら電圧を供給するということは、測定対象の回路に外部からエネルギーが供給されている状態を意味します。この仕組みを理解することが、後述する「電源が入った回路の抵抗を測ってはいけない」という安全上の大原則を理解する鍵となります。

電圧を印加しなければ、抵抗に電流が流れることはなく、測定プロセスそのものが始まりません。したがって、アナログテスターの抵抗測定においては、内部電源による電圧印加が全ての動作の出発点と言えるのです。


テスターの抵抗測定と電流値の関係

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アナログテスターが測定対象の抵抗器に電圧を印加した後に実行するのが、その結果として回路に流れる「電流値」の測定です。ここで再びオームの法則(I=V/R)が重要な役割を果たします。同じ電圧(V)をかけた場合、抵抗値(R)が大きければ大きいほど流れる電流(I)は小さくなり、逆に抵抗値(R)が小さければ小さいほど電流(I)は大きくなります。この反比例の関係を利用しているのです。

アナログテスターの心臓部には、直流電流計(メーター)が組み込まれています。これは非常に感度が高く、微小な電流の変化も針の動きとして捉えることができます。抵抗器を通過した電流は、この電流計へと流れ込み、電流の大きさに比例してメーターの針を動かします。

針の振れと抵抗値

  • 抵抗がほぼ0Ωの場合:テストリードの先端同士を接触(ショート)させると、抵抗がほとんどないため非常に大きな電流が流れます。その結果、針はスケールの右端いっぱい、つまり「0Ω」と記された位置まで大きく振れます。
  • 抵抗が非常に大きい場合:例えば数MΩ(メガオーム)といった高い抵抗値を持つ抵抗器を測定すると、電圧をかけてもごくわずかな電流しか流れません。そのため、針はほとんど動かず、スケールの左端にある「∞(無限大)」に近い位置を指します。

このように、アナログテスターは「流れる電流の大きさ」を「抵抗値」に変換した特殊な目盛を読むことで、間接的に抵抗値を判断しています。一般的な電圧計や電流計のスケールとは異なり、抵抗(Ω)の目盛が左右逆で、なおかつ左側に行くほど間隔が詰まった不均等なスケールになっているのは、この電流値との反比例の関係を盤面に表現しているためです。


デジタルテスターの電圧測定原理とは

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デジタルテスターの抵抗測定原理は、アナログテスターとは異なる、より現代的なアプローチを採用しています。アナログテスターが「既知の電圧をかけて、未知の電流を測る」のに対し、デジタルテスターの多くは「既知の一定電流を流して、未知の電圧を測る」という方式を採っています。

この方式の要となるのが、テスター内部に組み込まれた「定電流源」という電子回路です。 テスターの機能を抵抗(Ω)モードに設定すると、この定電流源から、測定レンジに応じて定められた微小で非常に安定した電流(テスト電流)がテストリードの先端から出力されます。

このテスト電流を測定したい抵抗器に流すと、オームの法則(V=I×R)に従って、抵抗値に比例した電圧が抵抗器の両端に発生します。例えば、1mA(0.001A)の定電流を1kΩ(1000Ω)の抵抗器に流した場合、V=0.001A×1000Ω=1V の電圧が発生します。

デジタルテスターは、この抵抗器の両端に発生した電圧を、内蔵されている非常に高精度な直流電圧計で精密に測定します。そして、マイコンなどの内部演算回路が、測定した電圧値(V)と、あらかじめプログラムされている定電流の値(I)を元に、R=V/I の計算を瞬時に実行。その結果を、誰でも読み間違えることのないデジタル数値として液晶画面に表示するのです。

アナログ式とデジタル式の原理比較

両者のアプローチと特徴の違いを、以下の表にまとめました。

項目アナログテスターデジタルテスター
基本となる内部計器直流電流計直流電圧計
測定アプローチ電圧を印加し、流れる電流を測定定電流を供給し、発生する電圧を測定
計算式のイメージR=V_内部/I_測定R=V_測定/I_定電流
表示方法針(アナログ)数字(デジタル)
読み取り精度読み手による誤差が生じやすい読み間違いがなく高精度
特徴抵抗値の変動を直感的に把握しやすい安定した正確な測定が可能、多機能

この原理の違いにより、デジタルテスターはアナログテスターに比べて、より安定し、再現性の高い正確な測定が可能となっています。


関連知識:絶縁抵抗測定の原理は?

Insulation-resistance-measurement
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絶縁抵抗測定は、同じ「抵抗」を測る行為でありながら、通常の抵抗測定とはその目的も原理も、そして使用する測定器も全く異なります。

  • 通常の抵抗測定:部品や回路が「どれくらい電気が流れやすいか(導通)」をΩ(オーム)やkΩ(キロオーム)の単位で測ります。
  • 絶縁抵抗測定:電線や機器が「どれくらい電気が漏れずにいるか(絶縁性能)」をMΩ(メガオーム)という非常に大きな単位で評価します。

この測定には、絶縁抵抗計(通称:メガー)という専用の測定器が用いられます。その原理は、測定対象物に対して、一般的なテスターとは比較にならないほど高い直流電圧(DC 125V, 250V, 500V, 1000Vなど)を意図的に印加することです。

測定対象の絶縁状態が健全であれば、どれだけ高い電圧をかけても、電気はほとんど流れず、絶縁体として機能します。しかし、ケーブルの被覆に傷があったり、湿気や汚れで絶縁性能が低下していたりすると、その劣化箇所からごく微小な「漏れ電流」が発生します。

絶縁抵抗計は、この非常に小さな漏れ電流を内蔵の高感度な電流計で検出し、オームの法則(R=V/I)に基づいて、印加した高い電圧と測定した微小な漏れ電流から、極めて高い抵抗値である絶縁抵抗値を算出します。

【重要】テスターと絶縁抵抗計は全くの別物です

一般的なテスターの抵抗測定レンジで、絶縁抵抗を測定することはできません。テスターが出力する電圧は数ボルト程度と低すぎるため、絶縁の良否を判断するための十分なデータが得られないからです。絶縁抵抗の測定には、必ずその目的に特化した絶縁抵抗計を使用する必要があります。

この測定は、ビルや工場の電気設備、モーターの巻線などの安全性を確認するために法律で定められており、感電や漏電火災といった重大な事故を未然に防ぐ上で、極めて重要な役割を担っています。


応用知識でわかるテスターの抵抗測定原理

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ここでは、テスターで抵抗を測定する際の、より実践的な知識と注意点について詳しく解説します。安全に関わる最も重要なルールから、測定値のズレや誤差につながる具体的な要因まで、正確で信頼性の高い測定を行うために、必ず知っておくべきポイントを掘り下げていきましょう。

  • テスター抵抗測定で電源を切る理由
  • テスターでの抵抗測定の注意点とは
  • 抵抗を測ると0Ωにならないのはなぜ?
  • テスター内部抵抗は測定値に影響する?

テスター抵抗測定で電源を切る理由

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テスターで抵抗を測定する際には、必ず測定対象の回路の電源を完全に切断しなければならない。これは、数ある測定ルールの中でも最も重要であり、測定者自身の安全と、テスターおよび測定対象の機器の両方を守るための絶対的な鉄則です。

その理由は、前述の通り、抵抗測定モードのテスターが自らの内部電池を使って測定対象に電圧を印加する仕組みになっているためです。もし、電源が供給されたままの「生きている」回路にテスターのリードを当ててしまうと、回路そのものが持つ電圧と、テスター内部から出力される電圧が正面衝突する形になります。

これにより、以下のような極めて深刻な事態を引き起こす可能性があります。

警告:通電中の抵抗測定は厳禁です

通電状態の回路で抵抗測定を行うと、テスターや測定対象の機器が修復不可能なレベルで破損するだけでなく、感電や火災といった人命に関わる重大な事故につながる危険性があります。測定前には必ず、ブレーカーを落とす、コンセントを抜くなどの方法で電源が完全に遮断されていることを確認してください。

  • 機器の破損:回路からの予期せぬ電圧や電流が、テスターのデリケートな内部回路に逆流し、電子部品や内蔵ヒューズを瞬時に破壊します。同時に、測定していた電子回路基板なども、テスターからの予期せぬ電流によって破壊される危険性があります。
  • ショートと火災:電圧がかかった回路を、低抵抗の測定レンジに設定したテスターで測定する行為は、実質的にその回路を工具などで短絡(ショート)させることと同じです。これにより、想定外の過大な電流が流れて激しい火花が発生したり、配線が過熱して被覆が溶けたり、最悪の場合は火災につながる危険性があります。
  • 感電のリスク:特に100V以上の商用電源ラインなど、高電圧の回路でこの誤操作を行うと、テスターを通じて人体に電流が流れる感電事故につながる危険性が極めて高くなります。

安全な測定の大前提として、測定対象を電源から完全に切り離し、さらに回路上のコンデンサなどに蓄えられた残留電荷があればそれも放電させてから、抵抗測定を開始することが強く求められます。

テスターでの抵抗測定の注意点とは

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電源を切るという最も重要なルールに加え、より信頼性が高く正確な抵抗測定を行うためには、いくつかの実践的な注意点が存在します。これらのポイントを意識することで、測定値の誤差を最小限に抑え、よりプロフェッショナルな測定が可能になります。

1. 測定前のゼロ調整(キャリブレーション)

これは、測定における「基準点」を定めるための非常に重要な操作です。

  • アナログテスターの場合:測定前に必ず「0Ω調整」を行います。抵抗レンジを選択した状態で、赤と黒のテストリードの先端をしっかりと接触させ、メーターの針が目盛の「0」を正確に指すように調整ダイヤルを回します。これは、内蔵電池の消耗具合によって基準点が微妙に変化するため、レンジを切り替えるたび、あるいは測定の直前に行うのが理想です。
  • デジタルテスターの場合:同様の目的で「Null(ヌル)機能」や「相対値(REL)機能」が搭載されています。この操作を行うと、テストリード自体の抵抗値などを含んだ値を”ゼロ”として記憶し、その後の測定値から自動的に差し引いて表示してくれます。特に、数Ω以下の低い抵抗値を精密に測定する際には、この操作が測定の正確性を大きく左右します。

2. 接触抵抗の影響を排除する

測定したい抵抗器のリード線や、回路上の測定ポイントが錆びていたり、酸化膜で覆われていたり、あるいはフラックスなどの汚れが付着していたりすると、テストリードの先端との間に意図しない余分な抵抗(接触抵抗)が発生します。この接触抵抗は、本来の抵抗値に加算されてしまうため、実際の抵抗値よりも高い値が表示される原因となります。

これを防ぐためには、測定ポイントをアルコールなどで清掃したり、サンドペーパーで軽く磨いたりして綺麗な状態にすることが有効です。また、測定時にはテストリードの先端をある程度の力でしっかりと押し当て、安定した接触を確保することが大切です。

3. 並列回路の影響を理解する

電子回路基板上の特定の抵抗器を測定する場合、その抵抗器が他の部品(別の抵抗器、コンデンサ、ICなど)と並列に接続されているケースが非常に多くあります。

この状態で抵抗値を測定しようとすると、テスターからの電流は測定したい抵抗器だけでなく、並列に接続された他の部品を経由するルートにも分かれて流れてしまいます。その結果、回路全体の合成抵抗値が測定されてしまい、目的の抵抗器単体の正しい値を測ることはできません。

この影響を避けて正確に測定するためには、少し手間がかかりますが、測定したい抵抗器の片側の足をはんだごてで基板から取り外し、完全に単独の状態にしてから測定する必要があります。

測定のチェックリスト

  • 測定対象の電源は完全に切断したか?
  • ゼロ調整またはNull操作は実施したか?
  • 測定ポイントは清潔で、確実に接触しているか?
  • 測定対象は並列回路の一部ではないか?


抵抗を測ると0Ωにならないのはなぜ?

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テスターのテストリード同士をしっかりと接触させても、特にデジタルテスターの場合、表示が完全に「0.00Ω」にならず、わずかな数値(例:0.1Ω)が表示されることがあります。これはテスターの故障ではなく、いくつかの避けられない物理的な要因によるものです。

その主な原因は、テストリード自体の微小な抵抗と、リード先端の接触部分で生じる接触抵抗の2つです。

1. テストリードの内部抵抗

テストリードは、電気をよく通す銅線をビニールで覆った構造をしています。しかし、どんなに優れた導体であっても、物理的に長さと断面積を持つ以上、電気抵抗が完全にゼロになることはありません。一般的なテスターに付属している長さ1m程度のリード線では、0.1Ωから0.5Ω程度の抵抗値を持つのが普通です。テスターは、このリード線自体の抵抗値も正直に測定してしまうため、その値が表示されるのです。

2. 接触抵抗

テストリードの先端(金属製のプローブ)同士を接触させる際、その金属面と金属面が触れ合う点でも、目に見えないレベルで微小な抵抗が発生します。これは、先端部分のメッキの状態や表面の微細な凹凸、酸化や汚れ、さらには接触させる圧力の強弱によっても変動します。

これらの「テストリードの抵抗」と「接触抵抗」の合計値が、テスターの表示が完全に0Ωにならない理由です。

普段、数kΩや数MΩといった大きな抵抗を測定する際には、この0.1Ω程度の誤差は測定結果にほとんど影響を与えません。しかし、モーターの巻線抵抗やヒューズ、シャント抵抗など、数Ω以下の非常に低い抵抗値を精密に測定したい場合には、このリード線自体の抵抗値が無視できない大きな誤差要因となります。

だからこそ、前述したデジタルテスターの「Null(ヌル)機能」が非常に重要になります。この機能は、こうした避けられない初期抵抗値をあらかじめ測定・記憶し、その後の測定値から自動的に差し引いてくれるため、より真値に近い低抵抗の測定が可能になるのです。


テスター内部抵抗は測定値に影響する?

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「テスターの内部抵抗」という言葉は、主に「電圧測定時」の性能を示す重要な指標として使われ、特定の条件下では測定値に大きな影響を与えることがあります。抵抗測定の原理とは直接異なりますが、テスターという測定器全体の特性を深く理解する上で欠かせない知識です。

電圧を測定する際、テスターは測定したい回路に対して並列に接続します。このとき、テスター自体が回路の一部となり、回路からわずかな電流を自身に引き込んでしまいます。この電圧測定モードにおけるテスターの見かけ上の抵抗値のことを「内部抵抗」または「入力インピーダンス」と呼びます。

理想的な電圧計とは、内部抵抗が無限大であり、測定対象の回路に一切影響を与えずに(つまり、回路から全く電流を奪わずに)純粋に電位差だけを読み取ることです。しかし、現実のテスターには必ず有限の内部抵抗が存在します。

デジタルテスターの場合

幸いなことに、現代のデジタルテスターの内部抵抗は、一般的に10MΩ(1000万Ω)以上と非常に高く設計されています。そのため、一般的な電子回路や電気回路の電圧を測定する際には、テスターが回路から奪う電流はごくわずかであり、測定への影響はほとんど無視できるレベルです。

アナログテスターの場合

一方、アナログテスターの内部抵抗は、デジタル式に比べてかなり低いという特性があります。製品の感度(性能)によって異なり、仕様書には「20kΩ/V」や「50kΩ/V」といった形で表記されます。

これは、「測定レンジが1Vのときに内部抵抗が20kΩになる」という意味です。例えば「20kΩ/V」のテスターを10Vレンジで測定する場合、そのときの内部抵抗は 10V×20kΩ/V=200kΩ となります。

もし、測定対象の回路自体が高い抵抗値(高インピーダンス)で構成されている場合(例えば、数100kΩの抵抗が直列につながっている回路など)、そこに200kΩのテスターを並列に接続すると、テスター自身が回路の動作を大きく変えてしまいます。その結果、テスターを接続する前の本来の電圧値とはかけ離れた、低い値が表示されてしまうという現象が起こるのです。

このように、特に高インピーダンスの回路で精密な電圧を測る際には、アナログテスターの内部抵抗が測定値に深刻な影響を与える可能性があることを、常に念頭に置いておく必要があります。


まとめ:テスターの抵抗測定原理の要点

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この記事で解説してきた、テスターによる抵抗測定の原理と注意点に関する重要なポイントを、以下に箇条書きでまとめます。これらの要点を押さえることで、あなたの測定作業はより安全で、より正確なものになるでしょう。

  • 抵抗測定の根本原理は電圧・電流・抵抗の関係を示すオームの法則
  • アナログテスターは内部の電池で測定対象に電圧を印加する
  • その結果流れる電流の大きさを測り抵抗値を間接的に判断する
  • デジタルテスターは安定した定電流を流し発生する電圧を測定する
  • 抵抗測定時は必ず測定対象の電源を完全に切断する
  • 通電状態で測定するとテスターや測定対象機器が破損する恐れがある
  • 感電やショート、火災といった重大な事故を防ぐため電源遮断は必須
  • 絶縁抵抗測定は高電圧をかけ漏れ電流を測る全く別の測定である
  • アナログテスターでは測定前に必ず0Ω調整を行う
  • デジタルテスターではNull機能でテストリードの抵抗値を補正する
  • テストリード自体の抵抗が0Ωにならない主な原因である
  • 測定箇所の汚れや酸化膜による接触抵抗も誤差につながる
  • 回路基板上の抵抗は並列回路の影響を受けるため単体にするのが原則
  • 電圧測定時にはテスターの内部抵抗(入力インピーダンス)が影響することがある
  • 特にアナログテスターで高インピーダンス回路を測る際は注意が必要
  • 原理と注意点を正しく理解し安全で信頼性の高い測定を心がけることが大切


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